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今回の展示で、多くのお客様がルーペを手に取って動かなくなってしまった作品があります。それは、どんぐりやヘーゼルナッツ(はしばみ)をモチーフにしたジュエリーです。

(ドングリブローチ K18 バスタイユ/プリカジュール)
どんぐりの表面を覆う、あの独特の繊維感。実はこれ、鋳造で形を作った後に、職人が一本一本、手作業で「カリカリ」と筋を刻み込んでいるのです。あまりに微細な作業のため、通常の視力では到底追いつきません。職人はルーペを2つ重ねてようやく見えるという、極限の世界でこの彫刻を行っています。

(「実はこうして彫っているんですよ」驚きと感動が広がる、先生の制作秘話)
しかし、単に倍率を上げれば良いというわけではありません。「10倍もの高倍率では、今度は作品全体のバランスや、自らの手元の先さえも見失ってしまう」からです。ミクロの細部を追求しながらも、常に全体としての調和を俯瞰し、道具を操る指先の感覚を研ぎ澄ませる――。そこまでして一本一本の筋を彫り込むのは、単なる装飾のためではありません。金属の表面にこの細かな筋(テクスチャー)が入ることで、光の反射が変わり、本物の自然物が持つ「カサカサとした質感」や生命力が宿るのです。
ヘーゼルナッツの作品も、かつて訪れたヨーロッパのマーケットで、偶然手にした一粒のヘーゼルナッツから始まりました。その野生味あふれる、しかしどこか愛らしい造形に深く魅了された先生は、再現するために、自身のアトリエの庭に木を植え、3、4年かけて実がなるのを待ち、枝の細さや実を包む「がく」のヒラヒラとした質感までを観察しました。「自然界の美しさを、そのまま形にしたい」。そんな執念とも言えるこだわりが、作品に奥行きを与えています。
(18金の細やかな彫りが、エナメルを透かして美しく浮き立つ)

(ヘーゼルナッツ ブローチ K18 バスタイユ/プリカジュール)
「単に本物に似せるのではなく、その植物が持つ『ねっとりとした質感』や『空気感』まで表現したい。わざと種の部分をリアルに作りすぎて目立たなくなったり、試行錯誤の連続ですよ」 と中嶋先生は語ります。
(アトリエの庭でスケッチをする中嶋先生)
先生の指先から生まれる植物たちは、身につける人の動きに合わせて揺れ、光を透かし、まるで今そこで摘み取ってきたかのような生命力を放ちます 。それは単なる「装飾」を超えた、自然への深いオマージュなのです 。
中嶋先生のジュエリーを語る上で欠かせないのが、現代では再現が極めて困難とされる「プラチナ七宝」の存在です。
(カンパニュラ リング&ペンダント PT プリカジュール)
通常、七宝は金や銀、銅を土台にしますが、プラチナに七宝を施すのは至難の業です。プラチナは加工が難しく、1920年代の装飾芸術(アール・デコ)の絶頂期にわずかに行われて以降、その技術は一度途絶えてしまいました。
中嶋先生が今、プラチナ七宝を実現できているのは、かつて日本の釉薬メーカーの社長と試行錯誤して作り上げた、特別な釉薬があるからです。この釉薬は膨張率がプラチナに合うよう計算されており、他の薬液では割れてしまうところを、美しく定着させることができます。
しかし、そのメーカーは2代目になり、残念なことにレシピも失われてしまいました。現在、私たちの手元にある薬液がなくなれば、この透明感、この輝きを作るこ.とは二度とできません。「手元にある分だけ」の、まさに幻の輝きなのです。
(教会のステンドグラスのように透き通る、釉薬の深い透明感)
プラチナはホワイトゴールドに比べて色が白く、透明感が非常に高いのが特徴です。特に、光を受けた際に下地のプラチナから反射してくる輝きは、言葉を失うほどの美しさです。会場で実物をご覧になったお客様が「画像で見るのと、実際に見るのとでは、全然違いますね」とおっしゃる理由は、この失われゆく素材が放つ唯一無二の光にあるのかもしれません。

次回の連載では、日本伝統の技法を用いた「色の錬金術」と、身に纏った瞬間に感じる「美しさの設計図」について触れてまいります。
写真や言葉では伝えきれない本物の美しさを、いつか皆様にも直接お届けできる日を願っております。
今回ご参加が叶わなかった皆様も、ぜひ次回の機会を楽しみにお待ちください。
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